中井深雪のコラム「心のおしゃべり音楽工房のケース検討について」

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中井深雪-コラム

「心のおしゃべり音楽工房のケース検討について」:2016年6月


心のおしゃべり音楽工房に通ってくれる音楽療法のクライエントの特にお子さんたちは、それこそ10年単位でお母さまと来てくださって、「音楽」を「人生」の「友=共=智」にしようとしてくださいます。(すみません、毎度の言葉遊び…(汗))

そうこうしているうちに、もう18年。ついに、高校を出て、進学したり、就職したりするお子さん…もうお子さんではないですね、クライエントが出始め、今年から18歳は成人、とすると「成人」し始めたクライエントをまぶしく見上げながら、随分長いこと臨床を続けてきたけど、ようやく結果が出始めたかも、とほっとする今日この頃です。
というのも、皆、(といってもまだ2,3人ですが)高校に入ってからお母さんが希望されていた中で、一番上のランクの所属先を得ているからなんです。

そんな中、これまで一度も、心のおしゃべり音楽工房として学会に個人のケース発表はしたことがなかったのですが、それはいったいなぜかというと、もちろん第一は、臨床音楽療法は「研究」ではないということ、個人情報を厳格に守りたいということ、でした。
ですが、もっと言うと、学会の方向性が「エビデンス」重視であることはしかたがないことなので、そういう雰囲気の中では大事な一人一人の人生を語りたくなかった、というような気持ちと、一人の人の人生の詰まった音楽療法には、誰とでも共有できることより、誰かとしか共有できないことの方が多く、私たち音楽療法士は、その数少ない共有者として今、ここにあるのだ、という自負心のようなものの方が強く、クライエント理解のための勉強はしても、学会発表となると必ず発生する先行研究との照合作業などはしている時間もないし、そういう手続きを踏んだとしても学会のような場所で共有できるものだとも思えなかった、というのが本音かもしれません。(もちろん、勉強しに行くのは好きです。)

ただ、一人ずつ、大人になっていくクライエントを見ていて、ここのところうっすらと見えてきたことがあるのです。

それは、心のおしゃべり音楽工房独自の「ケース検討」は、一人のクライエントについて、その導入から終了まで何十、何百セッションもの分析をするのではなく、ある経過(=クライエントの保護者や施設の職員と既に共有できているクライエントの人間形成に役立ちそうな音楽の使い方)を背景(前提)に、ある日の非常の1セッションを徹底的に見て見る、というのがいいのではないか、という考えです。
これは、集団内個人にも適用できるものと思います。



2002年くらいの日本音楽療法学会学術大会で、音楽療法の導入期(うちでは大体、3か月~半年、6~12回くらいまで、とご案内します。)、子どもたちには「変容」のきっかけとなる楽曲&プレイ(つまりプレイング・ソング)があり、これを以て導入期が終わった、とみなす、という研究発表をしたのですが、これは「個々の対象児における音楽療法導入期」の検討でした。

導入期が終わり、そのお子さんとのルーティーンの音楽療法が完成したら、それは一つの「基準セッション」のようなものになっていきます。
これを、発達と成長に合わせて、よりよい発達支援のための学習的な内容から、より自己啓発的な内容へと何段階にもギアを上げて行ってから、およそ中学1年生の間に、つまり本格的な第二次性徴による思春期突入までに、音楽だけで変容が可能なようにパターン的に完成できるのが理想的な経過かと考えています。
その後は、楽曲の使い方次第で自分で切り替えたり気づいたりしていけるような選曲と選曲に伴う対話を進めて行くことで「大人」になっていってもらう、というものです。 大体ですが、好みが本当にはっきりしてきたな、と感じるのはやはり14,5歳くらいからなんですよね。

さて、その過程には必ず、「いつもと違う!」というセッションがあるものですよね。
この「いつもと違う!」がポジティブなものであってもネガティブなものであっても、それが、ケース検討の「対象セッション」となり得ます。もちろん、「いつもとは違う」けど「今までにもあった」ようなものも含めますし、ケース検討してみて、広く世間に発表するほどの新しい知見には繋がらない場合もあるでしょうが、少なくとも、そのクライエントのご両親や直接の介護者にとっては、その症例検討は新たな気づきを生み、その日のそのクライエントのメイン・セラピストにとってもコ・セラピストにとっても、珠玉の検討になるでしょう。
私自身は、これをコツコツと、一人一人、1セッション1セッション、18年間続けてきたつもりです。しかも、初期の頃に比べて、現在の方が断然詳しいんです。これが何を意味するかは、何となくお解りになることと思います。

音楽そのものが、日常を「非日常」へと昇華させる力を持ってはいます。

子どもたち、人々、の、「日常」の中に埋没してしまいがちな「実は強い思い」を、いかに見出し、伝えさせ、特定の楽曲で共有させてもらい、なおかつそれが精神的なクライシスにつながる可能性があるものなのなら、ママがその手を離したくない限り、決して離さないで済むように一緒に乗り越えてあげようとする、 これが、心のおしゃべり音楽工房の音楽療法なのではないかと思います。

今後も心のおしゃべり音楽工房で育つセラピストたちが、このことにも気づいて巣立ち、別のフィールドでも等しくクライエントの未来のために貢献を続けてくれることを願います。

2016.6月

中井深雪

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