音楽療法コラム-即興の得意な音楽療法士を目指したい方のために

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音楽療法コラム -Ⅳ-

即興の得意な音楽療法士を目指したい方のために


・活動報告→『音楽療法士のための即興力UP講座2015』

私が音楽療法を最終職業に定めた決め手は、何の役にも立つまいと思っていた自分のピアノの即興演奏が、プロの演奏家という職業以外で生かせる唯一の仕事だと直感したからでした。

時に、1歳になる前の男児の子育て真っ最中の頃でした。

ところがその後、一緒に仕事をするようになったパートナーを初め、学会等で知り合った仲間、専門学校で教えた生徒などの大半が、この「ピアノの即興演奏」への苦手意識に悩まされていることを知ります。
とはいえ、音楽療法士になった当初は、自分の修行で精一杯でしたから、そうした認識は置いておいて、がむしゃらに臨床に埋没しておりました。

2001年、音楽療法士の国家資格化を使命として日本音楽療法学会が誕生し、私も臨床6年目に突入した頃、私はある中軽度知的障害者の通所施設で、教え子の実習生含めて5人でセッションに当たらせていただいていました。
音楽室のpiano.JPG35名の大規模施設を目標に、当時既に30名弱に達する利用者さんたちを抱える施設でしたので、グループを2つに分けて1日に2セッション行っておりましたが、私自身は、セッション中のサウンド・コントロールのコツをほぼ体で覚えていましたので、私以外のセラピストにもピアノ演奏の機会を作ってあげたかったのと、私もフロアで対象者たちに直接関わりたかったのとで、他のセラピストにピアノを任せてみていたところ、ある時、セッション中に舌打ちして出て行ってしまわれ、それっきり参加しなくなってしまう方や、セッション終了後に部屋を出る際、「これのどこがセラピーなのよ!」と小声で捨て台詞のように呟いて出て行かれる利用者さんに出会い、ハッとさせられたのでした。利用者さんたちがお好きな流行歌を扱う事が多かったのもあるのでしょうが、確かに、フロアで利用者さんたちに対していても、やりにくかったのは事実です。演奏の質がイメージの範囲でない事が多く、そのため、曲に安心して乗って行けない不安感がセッションの中に漂っていたのでしょう。
そうか、機会を与えるため、といった程度の目的でピアノを担当させてはいけなかったんだ、と、私は痛く反省し、それから研究を始めました。

まず、グルーピング。

どういう人たちが一緒にセッションして居心地のよい組み合わせなのか、セッションの雰囲気を左右しやすい、目立つ方4人を「キーマン」として、その方々の嗜好と興味の対象(より興味や集中が向くのが人に対してなのか、モノに対してなのかのバランス)についてセラピスト間で協議したのです。そして、曲の嗜好と興味の方向をマトリックスにして、キーマンたちを中心にお一人お一人相対的にそのマトリックスに配置して俯瞰してみることにしました。

完成図は、非常に面白いまとまりを示していました。
私たちは、この結果に基づいて、グループを4つに分けました。(後に、現実的なシフトとして4グループのセッションを平等にこなすのは時間的に難しい事から、他施設を含めて、グループは3つにまとめるようになります。)
次に、私のピアノの弾き歌いのパターン分析をする事にし、これらキーマンの方々が、セッション中に一気にリラックスした表情に変わるポイントを探しました。
そして、キーマンご本人のリクエスト曲である場合には外して、その変化が起きる直前の楽曲を「キー曲」としました。(当時はこの言葉は使用していませんでしたが、今は解りやすいように「キー曲」としますね。)
さらに、「キー曲」を、私がどのように提示したのかも含めて、セッション前のキーマンの体調と感情の状態についてのアセスメントと、提示された「キー曲」との相関関係について分析しました。

その結果、そこには確からしい相関関係が表れました。
数量的な分析ができるほどの条件を整えるのは困難でしたから、簡単な統計を取っての質的な検討でしたが、その後、私以外のセラピストが弾き歌いをしても同様の結果が得られる事が判りました。

2003年の学会で、私は当時の仲間のスタッフと5名で、学会発表を行いました。
テーマは、「集団音楽療法における4グループ5選曲提示技法の成立過程と内容について」です。
この発表は、今でも論文にする価値はある、と考えていながら、そのままになっているのですが、特に後半、「CUTES」と名付けられた「5選曲提示技法」は、共有可能なMTN心のおしゃべり音楽工房の恒常的な臨床技術のモデルとなりました。

「CUTES」は、即興が得意ではないセラピストであっても、対象者を、そのコンディションに合わせて一つの楽曲を適切にアレンジして提示する事で、音楽療法における唯一の共通原理と言われるアルトシューラーの「同質の原理」に添った、対象者が「いま ここ」で求めているリラクゼーションに導く事ができるような演奏技法として編み出された技法で、音楽療法について専門的に学んで音楽療法士補の受験資格を得た、音大卒レベルのピアノの技術がある方ならば、複雑なビートにもついていけるリズム感さえあれば、提示技法の簡単なトレーニングと自主練習だけで、苦手な即興をセッションに使うコツを掴めるようになるしくみです。

最近も、私のもとで認定を目指しながら臨床技術を学びたい、とおっしゃる研修生希望の方が面談にいらしてくださいましたが、今春卒業される専門学校では、ピアノの即興演奏は殆ど教えてもらえなかった、とおっしゃっていらっしゃいました。
音楽療法士中井一方、即興が扱えなければ一人前の音楽療法士にはなれない、という意識も、依然強いと思われます。
音楽療法は決して即興だけではないですが、確かに、「音楽を言葉の代わりにも使える」療法である以上、即興ができるとできないでは、セラピスト本人の自信も、セッションにおけるセラピスト、クライエント双方の解放感や自由度も、かなり違うだろうということは言えそうですよね。

現在、「CUTES」は、私たちの工房主催の講習会や、各研究会の依頼によるワークショップなどでのみ公開しています。というのも、個人レッスンだけでは教えられないことがあり、最初の理論とワークショップのところは、グループで経験して欲しいのです。
つまり、楽曲ごとの演奏の「聴こえ方」について客観的に共有できる、私や工房スタッフ以外の、2つ以上の大人の耳が必要なのです。

中井深雪

MTN心のおしゃべり音楽工房では、ピアノの即興に強い音楽療法士を目指したい方々のための理論と実技についてお伝えするワークショップを随時開催いたします。詳しくはこちら

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